最近、新聞コラムで学んだこと
若人に期待する100年後の日本
裏千家前家元・千玄室
茶道の精神は奥が深いですね。
「国を守る」ということを、若い人たちが持つことは非常に大事だと感じました。
兜(かぶと)門前でたたずむ(渡辺恭晃撮影) |
話の肖像画
裏千家前家元・千玄室
若人に期待する100年後の日本
《人生100年、6歳で始めた茶の道はなんと94年。大正、昭和、平成、令和と4つの時代を生きてきた。そんな茶人にこれからを聞いた》
孫が5人いまして、今はひ孫も5人になりました。若い人たちは、自由でいい世の中に座ってくれていると思います。けれども、まずは人それぞれが自分の100年ではなく、100年後の人たちがどう生きるのかということを考えないといけないと思います。
ところが日本という国が、そして日本人が、昔のように一つの厳しい道筋というものを持っていないと感じます。昔の政治家や経済人はすごかった。なんでもない人でも、日本人はみな「腹」をね(ポン、と自分の腹を打って)、持っていたものです。今はそれがない。政治は党利党略ばかりです。尖閣諸島が取られたら、台湾が攻められたらどうするのでしょう。外交政策も頼りないし、そもそも今の日本人は、考えが甘いのです。これで今の日本を守っていけるのでしょうか。危機感を持って、国民全体で考えねばなりません。
「国を守る」というのは、戦争を肯定しているわけではありません。国民の命や財産を守るということです。私は戦争経験者ですから戦争には反対です。ただ、「平和、平和」といっても、平和がやってきてくれるわけではありません。現に今、世界のあちこちで戦争や紛争が起きています。
若い人たちには分別のある自分自身というものを創ってほしいと思います。情報があふれる今の社会で、人に流されるのではなく、自分の価値観を持ってほしいのです。私たちの時代は自分で自分の価値観を作ったものでした。本を読み、人の話を聞き、そして自分で考える。親や周囲の人に感謝することも大切です。ありがたいという気持ちが大事なのです。
《生かされていることの大切さ、尊さを思う》
生きているということはすばらしいことです。師である後藤瑞巌(ずいがん)老師から「いまここにあんたが生きているということは、あんただけ一人いるということではない」と言われたことがあります。ご先祖様や両親、何万という仏様がいるのだから「日々、『ああ、ありがたい、もったいない』と思って暮らしなさいよ」とおっしゃいました。生きているということは、多くの人に、動物や植物にも生かされているということなのです。
大徳寺に参禅して約1年、僧堂を去る日も近づいた頃のことです。ある公案を授けられました。公案とは師から与えられる問題で、答えを導き出すことで悟りを得ようとするものです。
一言「破草鞋(はそうあい)」とおっしゃった。さて、ハソウアイとは何か? さっぱりわかりません。ようやく破れた草鞋(わらじ)だと思い当たり、勇んで「やぶれわらじなし」と申しますと、「馬鹿(ばか)!」と一喝されました。結局、分からないまま僧堂を去りました。
それから十数年後、托鉢(たくはつ)僧が来られ、玄関でお茶をお出ししたときのことでした。ふと足元を見ると草鞋が擦り切れています。そこで、ようやくわかったのでした。私は草鞋にとらわれていたことに気づいたのです。「破草鞋」とは「草鞋を忘れる」、つまり「無」であることを悟ったのでした。
一つのことに固執していては悟ることはできないのです。茶道の構えも無です。究めた先には何もない、「無」あるのみです。この年になって私も草鞋を履いていたことを忘れました。
この先、さて、何があるでしょうか。今も私は日々の新たな発見を、感動を楽しみにしています。許される限り、やはり「一盌(わん)」をもって茶道の精神を伝え続けたいと思います。(聞き手 山上直子)
裏千家前家元・千玄室氏 |
千 玄室(せん げんしつ、1923年(大正12年)4月19日 - )は、茶道裏千家前家元15代汎叟宗室。斎号は鵬雲斎。若宗匠時代は宗興。現在は大宗匠・千玄室と称する。「玄室」の名は、裏千家4代目の仙叟宗室が宗室襲名前に玄室と名乗っており、これに因んで12代直叟宗室が隠居した際に玄室を名乗ったことに由来する[要出典]。本名は千 政興。京都大学大学院特任教授・大阪大学大学院客員教授として、伝統芸術研究領域における指導に当たるほか、外務省参与(2019年3月31日まで)、ユネスコ親善大使、日本・国連親善大使、日本国際連合協会会長、日本オリンピック委員会名誉委員、日本会議代表委員、日本馬術連盟会長、京都サンガF.C.取締役などを務めている。
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