2023年4月21日金曜日

巨匠の背後にあった昭和史

 

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『小津安二郎』平山周吉著

巨匠の背後にあった昭和史  文芸評論家 富岡幸一郎


『小津安二郎』


『小津安二郎』という巨匠の背後にあった昭和史の紹介コラムです。

紹介者は、文芸評論家 富岡幸一郎

鎌倉文学館長もやられている文芸評論家の視点でみた紹介です。



文芸評論家 富岡幸一郎氏

冨岡 幸一郎(とみおか こういちろう、1957年(昭和32年)11月29日 - )は、日本の文芸評論家。1979年(昭和54年)、大学在学中に書いた評論「意識の暗室 埴谷雄高と三島由紀夫」が第22回群像新人文学賞評論部門の優秀作を受賞する。1991年(平成3年)にドイツに留学し、同じ頃に住まいを都内から鎌倉に移した。関東学院大学文学部比較文化学科教授、関東学院大学図書館長、鎌倉文学館館長。日本を愛するキリスト者の会理事。



『小津安二郎』平山周吉著 文芸評論家 富岡幸一郎 
巨匠の背後にあった昭和史

本書の冒頭に映画監督の小津安二郎を偲ぶ小津会の話があり、小津映画のプロデューサーであった山内静夫の「小津先生は、百年に一人という方です」という言葉が紹介されている。

著者は小津が1903年生まれで、百年は「二十世紀」であり、「明治大正昭和」=「近代日本」である、とその時に気づいたという。つまりこの「二十世紀日本」のイメージを表象するものこそ、小津映画であり、「東京物語」の笠智衆ではないか、と。

ここから出発して、本書はこれまでの数多くの小津論が見落としてきた重大なことがらに言及する。

それは小津自身が同世代の中では少ない「支那事変」出征者で、その戦争体験(盟友だった山中貞雄監督の戦病死の記憶も含めた)こそが、戦場から生還しキャメラをのぞく小津にとって最大のテーマだったのではないか、と。昭和26年公開の映画「麦秋」の空のショットに、戦後の日本人が生きることへの関心のなかで、忘れてしまった死者の影が映しだされているとの指摘は鮮烈である。

小津映画といえば家族の物語というのが定番だが、「近代日本」の歴史は戦争の連続であり、この100年は戦争を抜きには語り得ない。「東京物語」でも、原節子は戦争未亡人で、亡き夫のことを「でもこのごろ、思い出さない日さえあるんです」との印象的な科白(せりふ)がある。

著者が描き出すのは、この「昭和史を生きた日本人としての畏るべき執念」を持った映画作家・小津安二郎の姿であり、その背後には「『戦争』という巨大な協力者が介在していた」のである。

小津の生誕120年、没後60年の今年、神奈川近代文学館でも小津展が開かれているが、本書は小津映画の静寂の美が歴史の何処から湧き出ずるかを改めて教えてくれる。

3000枚の厖大(ぼうだい)なパゾリーニ論。評伝スタイルだが、映画に詩、小説も含めた全作品から響いてくる圧倒的な暴風のような、まがまがしい野性的な力の秘密に迫る。カトリック、共産主義者、そして三島由紀夫。パゾリーニの映画「マタイ伝」ほど精確にイエス・キリストを描いたものはない。日本人の手によって、日本語でこの書物が著されたこと自体が驚異である。


■「明治大正昭和」=「近代日本」である、「二十世紀日本」に観点をあてた論評は非常に面白かった。








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