2023年2月24日金曜日

人が死ぬ如く国も亡ぶ

 

最近、新聞コラムで学んだこと

人が死ぬ如く国も亡ぶ 

文芸評論家 富岡幸一郎氏


文芸評論家 富岡幸一郎氏

冨岡 幸一郎(とみおか こういちろう、1957年(昭和32年)11月29日 - )は、日本の文芸評論家。1979年(昭和54年)、大学在学中に書いた評論「意識の暗室 埴谷雄高と三島由紀夫」が第22回群像新人文学賞評論部門の優秀作を受賞する。1991年(平成3年)にドイツに留学し、同じ頃に住まいを都内から鎌倉に移した。関東学院大学文学部比較文化学科教授、関東学院大学図書館長、鎌倉文学館館長。日本を愛するキリスト者の会理事。



人が死ぬ如く国も亡ぶ 富岡幸一郎氏

安倍晋三元首相の銃撃死については、「民主主義への挑戦」「全体主義社会の到来」などと評論されることが多いが、いずれにも大きなずれを感じている。

あの事件は政治的な背景のあるテロではない。もちろん世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題でもない。新自由主義がもたらした極端な格差や相対的貧困などへの絶望が末期的に発露した暴力だ。過去には、秋葉原通り魔事件や京都アニメーション放火殺人事件などでも見られたものだ。思想家のキルケゴールが『死に至る病』で挙げた「個」を肥大化させ、社会に責任転嫁させた形の絶望であり、そこに「公」に対する批判や改革志向は存在しない。

対照的なのは作家、三島由紀夫が東京・市谷の陸上自衛隊施設で憲法改正、つまり戦後体制からの脱却という「公」に通じる明確な訴えを掲げて自刃した「三島事件」だろう。しかし事件は衝撃こそ与えたものの、三島のメッセージはタブーとされ、等閑視され続けた。その一方で、旧統一教会を巡る問題は、霊感商法や多額の献金などが耳目を集め続け、「救済法」が成立するまでに至った。

「個」の絶望が社会に影響を与えるに至ったのは、自民・公明両党などへの攻撃材料になる、要は政局とされたことがあるだろう。さらに世論も「空気」にのまれてしまっている。

日本人は宗教への健全な感受性を喪失し、無自覚な無神論者になつている。背景には連合国軍最高司令官総司令部の神道指令による「政教分離」の強制が一ある。「個」を超えた超越的な価値観と結びつかなければ宗教感覚は存在し得ない。そうした態度を立て直すことなく自らなし崩し続けたのが戦後社会だ。魂の腐敗は極まっている。

人が死ぬ如く国も亡ぶー。これは評論家の江藤淳『日本よ、亡びるのか』(文芸春秋)の帯文に寄せた言葉だが、安倍氏の悲劇的な死を受けた現状を象徴しているように思えてならない。そんな中、国葬で多くの若者が献花に列をなしたことは、国家やそれを支える中間共同体の再建が必要だという意識のあらわれではないだろうか。そこに希望は感じている。(談)


■江藤淳氏の「人が死ぬ如く国も亡ぶ」は、凄い言葉です。
『「個」を超えた超越的な価値観と結びつかなければ宗教感覚は存在し得ない。そうした態度を立て直すことなく自らなし崩し続けたのが戦後社会だ。魂の腐敗は極まっている。』の提起も奥が深いですね。








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