オートシェイプ画は、Excelで面と線の積み重ねで描くイラストです。なかなか面白い絵が描けます。 主に、猫・JAZZミュージシャン・POPミュージシャン・野鳥・花・人物・ポスター画等のオートシェイプ画を制作しています。
2022年9月の、産経新聞「モンテーニュとの対話」に、文化部の桑原聡氏による、現役引退する拓郎についての感想文が載っていましたので書き起こして掲載します。
「拓郎よ、フォーエバー」
私の好きなミュージシャンです。
非常に共感できる、思わず「そうだよね」という内容でしたので、雑記に掲載しておくことにしました。
画像はたまたま6月に描いた「Takuro」のオートシェイプ画イラストです。
Takuro 2022年/6月 |
拓郎よ、フォーエバー
上手下手の次元を超えた歌い手
この夏は車を運転するたびに、吉田拓郎のベストアルバム「PENNY LANE」をかけて、一緒にシャウトしていた。ときに鳥肌が立ち、ときに若いころに別れた女のことが脳裏に浮かぶ。昭和45年のデビューから30年にわたって発表してきた楽曲から35曲を選び2枚のCDに収めたものだ。
ひさしぶりに拓郎の歌にどっぷりと浸り、一緒に歌いながら改めて思った。彼ほど説得力を持った歌い手はほかにいない、上手下手という次元をはるかに超えた特別な歌い手であると。自身の詞であろうと岡本おさみや松本隆の詞であろうと、彼がそれに潔いメロディー(ハ長調であれば、ドレミファソラシドだけでメロディーを紡ぎ、思わせぶりな半音を紛れ込ませない)を付けて畳みかけるように歌えば、その言葉は強力な説得力をもって個々の聴き手の心を揺さぶる。それだけではない。人と違う感じ方、ものの見方に価値を見いだす現代の日本人が忘却してしまった感のある「連帯」への扉を開く。
拓郎と同い年の岡林信康は「私たち」と歌ったが、拓郎は「私」と歌った。「連帯」を求めた岡林に対して、「私たち」なんて幻想に過ぎない、と言わんばかりに、徹底して個にこだわった。それなのに・・・面白い逆説ではないか。
モンテーニュは第2巻第18章「嘘について」にこう書いている。
《言葉こそ我々の意志や思想が相互に通いあうための唯一の道具であり、我々の霊魂の代弁者である。これを失っては、我々はもう手をつなぐことも知り合うこともできない》(関根秀雄訳)
拓郎が吐き出す言葉には嘘がない。そこには魂の言葉がある。だからこそ、たとえば、50年8月2日から3日にかけて行った静岡県掛川市のつま恋多目的広場での野外オールナイト・ライブに6万人以上もの若者が集まったのだ。
何度聴いても鳥肌立つ名曲2つ
嘘といえば、この曲を忘れるわけにはいかない。50歳を目前に極度のスランプに見舞われ、自分の歌ってきたことがすべて嘘っぱちであると感じるようになり、そう公言すらするようになった拓郎は、中島みゆきに思いを吐露して楽曲の提供を依頼した。平成7年のことだ。
拓郎がデビューした年の前後、日米安全保障条約の自動延長を阻上しようとした安保闘争が起こった。拓郎自身は明確な政治的イデオロギーを持っていたわけではないが、「古い船をいま動かせるのは古い水夫じゃないだろう」と歌う「イメージの詩」にはその時代の気分が色濃く滲む。その少し後のやるせない気分を漂わせた「祭りのあと」は、安保闘争敗北後の空気を歌ったものだ。そうした背景をもつ拓郎に、みゆきは、まさに渾身の名曲を提供する。「永遠の嘘をついてくれ」である。
そこには、「あなたの歌に心を揺さぶられてきたのに、その歌が嘘だったなんて言わないでくれ、嘘なら嘘で構わない、ならば永遠の嘘をついてくれ」という叱咤の気持ちがこめられている。それだけではない。安保闘争での敗北を機に、日和って日本で小市民として生きている人物が、革命幻想を捨てることなく海外に逃走した過激派とおぼしき友人に寄せる思いが重ねられている。何度聴いても鳥肌が立つ。この曲をきっかけに拓郎は復活する。みゆきに感謝するしかない。
このベストアルバムには、もう1曲、鳥肌が立つ作品がある。「アジアの片隅で」だ。詞は岡本おさみ 。55年に発表したアルバム「アジアの片隅で」のタイトル曲で、拓郎作品のなかで最重量級といえるものだ。「女まがいの唄」があふれる時代に、拓郎は政治腐敗、戦争、経済優先、人間疎外、倫理崩壊、権利主張などに対する苛立ちを、レゲエの重たいリズムに乗せて畳みかけるように歌う。いや、「歌う」というより「叫ぶ」だ。
拓郎の叫びは、出口の見えぬウクライナ戦争のさなか、夜な夜なウイスキーを飲んで酔っぱらっている私の心に痛いくらいに突き刺さる。今宵もまた、アジアの片隅の小さな島国の半島の片隅に暮らす私は、性懲りもなく酒を飲みほすはずだ。
同時代を生きた幸運を抱きしめる
拓郎作品については、それぞれが自分なりのベスト10をお持ちかと思う。それは年齢を重ねたり、環境が変化したり、はたまたその日の気分によって変動するだろう。この原稿を書きながら、ベストアルバムに収められた35曲のなかから、前期高齢者になる直前の自分が何を選ぶか、記録しておくのも面白いのではないかと思いついた。結果は次の通り。
① 「イメージの詩」
② 「永遠の嘘をついて」
③ 「人生を語らず」
④ 「流星」
⑤ 「外は白い雪の夜」
⑥ 「アジアの片隅で」
⑦ 「落陽」
⑧ 「春だったね」
⑨ 「マ‐ ―クⅡ」
⑩ 「シンシア」
どれも宝石のような作品だ。拓郎と同じ時代を生きることができた幸運を抱きしめなくてどうする、そんな思いでこのリストを眺めている。
その拓郎が、今年限りで音楽活動から身を引く。近年、時代の非情な流れをもっとも強く感じる二ュースだった。「最後のアルバム」と拓郎が言う「ah-面白かった」を買い、じっくりと聴いてみた。
字余り、字足らずの歌詞を、潔いメロディーに乗せて歌う拓郎節は、ここでも.健在だった。もちろん全盛期のノリやエッジの鋭さはないが、その歌声は、76歳とはとても思えない。関わってくれた人々とファン、何よりも音楽への感謝の気持ちが込められ、アルバム全体を通して、自分の人生を「ah-面白かった」と総括する内容だ。
音楽性も多彩だ。ロツクンロールやファンク、ラテン、フラメンコ、ブルースを取り入れるなど、まったく退屈させない。中でも子供のころ病弱だった自分の人生を振り返った「Contrast」は、拓郎らしい名曲だと思う。そして最後に収められたタイトル曲には思わず涙がこぼれた。勝手なことを言わせてもらうなら、ボブ・ディランとどちらが長く歌っていられるか競争してほしかった。52年間、ありがとう。敬称略(文化部 桑原聡)
2023年修正版 拓郎 |
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